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研究者としての第一歩

松浦 海翔 
一橋大学大学院 社会学研究科 博士後期課程2年

博士後期課程の1年目は、あっという間に過ぎていった。だが、ただ過ぎていったというわけではない。国立だけでなく、秋田、長野、新潟、千葉、そしてノルウェーとスコットランドで過ごした日々は、たくさんの、あたらしい出会いや機会に溢れていた。そしてそれは、さまざまな経験をもたらしてくれるものでもあった。

研究としておこなっていたことの中心は、これまでと同様に、秋田県北秋田市に位置する集落での調査である。集落行事に参加すること、狩猟や山菜・キノコの採取活動に同行すること、それから集落のひとたちの話を聞くこと。こうした調査の方法は、これまでも、そしてこれからもつづけていくものだと思う。そのなかで、あらたな出会いもあった。偶然知り合うことができたひとに、話を聞きにいく。そしてそのことが、べつの研究テーマにつながるということを、身をもって経験した。

 

長野県栄村と新潟県津南町でおこなわれた「マタギ・サミット」への参加を通じて、狩猟の研究をしている大学院生と知り合えたこともあった。それがきっかけで、わたしの調査地に一度来てもらうことになり、マタギの研究をしている先生も含めて一緒に調査をすることができた。近くにおなじような研究をしている同期がいるというのはとても心強く、これからもその縁を大切にしていきたい。

 

それから、はじめての経験としては、千葉県の南房総市で開催された「第12回 和田浦くじらゼミ」で講演をおこなう機会をいただいたことがあげられる。名前からも分かるとおり、「くじら」に関心を寄せるひとたちが集まるであろう場所で、どのような話ができるか、当初は迷うところもあった。しかし、写真などを見せながら、いかに一般のかたたちに伝わるように話をするか、という訓練にもなったように思う。

 

ノルウェーとスコットランドで、世界各国の研究者らと会う機会もいただけた。英語で発表をおこない、さらには議論することの難しさを痛感させられたが、さまざまなバックグラウンドをもつ研究者たちと出会い、意見交換をすることができたのは幸運だった。声をかけてくれた先生方に、この場を借りてお礼を述べたい。

そして、わたしの研究人生において、ひとつの転換点となるだろうことがあった。2024年12月13日、はじめて投稿していた論文の掲載決定通知を受けとったのである。大学の東キャンパスでそのメールを受けとったとき、周りにひとがいないのを確認してから、小さくガッツポーズをしたのを憶えている。だがその論文は、決してひとりで書いたものではない。それは、調査地のかたたちと言葉を交わし、生活をともにしながら考えてきたことなのである。

調査地のかたたちに、ようやく、ひとつめのお返しをすることができた。論文の抜刷りをお渡しし、「よくがんばったな」と労いのことばをかけていただいたとき、恥ずかしいような、うれしさで胸がいっぱいになるような、そしてすこしだけ安心したような気持ちになった。

 

論文を出せたということ。それは小さいかもしれないが、たしかな感触をともなった一歩である。最近は、博士論文をどのように書いていくか、あるいは今後の研究をどのように進めていくかについて、悩むこともある。だが、頭のなかだけで考えていてもしょうがないようにも思う。結局のところ、わたしにとっては研究とおなじように、自分の足で歩き、経験したことから考えるほうが向いているのである。

 

2025年度には、現在いただいているものとはべつの研究助成にも挑戦してみようと思っているし、あたらしい調査地にも行きたいと考えている。

 

ようやく踏み出せたその一歩目を足がかりに、これからも二歩目、三歩目と、歩んでいきたい。

© 2025 くにたち歩く学問の会        発行:東京都国立市中2-1 一橋大学大学院社会学研究科赤嶺研究室

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