『きわ』の3年目を迎えて
小泉 佑介
一橋大学大学院社会学研究科 講師
2024年7月に創刊したオンライン雑誌『きわ』も、今号でVol. 3となる。本誌は、教員と学生、あるいは大学と社会といった「さまざまな際(きわ)をつなぐ、ゆるやかな環(わ)を構築する」(創刊の辞)ことを目指しつつ、これまで様々な観点から学問の「きわ」を問い直す寄稿文に支えられてきた。2年のあいだに4つの特集を出してきた本誌も、そろそろ独自の「きわ論」を提示しても良さそうな頃合いに思われるかもしれない。しかし、そう簡単なものでもなさそうだということもまた、同時に見えてきたような気もする。
ときに「きわ」を歩き続けていると、それまで重要であると思っていたことが打ち崩されることもあり、すぐに成果の出てこない議論に意味があるのかと立ち止まってしまうことも多い。どうあがいてもすんなりいかないのが「きわ」の醍醐味であるのかもしれない。それでも、みんなでぐるぐると思考をめぐらせていると、思いもよらない発見に出会うこともしばしばで、じっくり煮詰めてきた「きわ」を歩くことの〈面白さ〉が、2年という歳月をかけてようやく見え始めてきたように思われる。ゆっくりと、でも着実に歩みを進めることが、何よりも重要なのであろう。
そんな本誌だが、今号ではこれまでと少し違った「きわ」に踏み込んでいる。その中心にあるのが12月17日に一橋大学でおこなわれた久保明教氏の著書『内在的多様性批判─ポストモダン人類学から存在論的転回へ』(2025年、作品社)に対する合評会の記録である。この合評会では、コメンテータ1名と一橋大学の教員4名+学生2名が3組のペアになって同書に対するコメントを付し、著者からのリプライを受けた後で総勢13名の参加者とともに総合討論をおこなうという場であった。まずは、合評会へのコメンテータを快く引き受けて頂いた菊谷和宏氏と、全方位からのコメントにくまなくリプライをしてくれた久保氏に感謝を表したい。今号では、その合評会の記録として、コメンテータを務めて頂いた菊谷氏のコメント原稿と、それに対する著者の久保氏によるリプライ原稿を掲載している。
このほか、今号では、2月10日におこなわれた研究会での竹中歩氏の報告とそれに対する質疑の記録が掲載されている。これに加えて、樋浦ゆりあ氏の原稿が掲載されている。一見すると「なんでもありの寄せ集め」に思われるような特集だが、ひとつひとつの原稿を丁寧に読んでいくと、そこには「きわ」に魅せられた仲間が、あっちに行ったりこちらに来たりしながら、ときに衝突しながらも、つねに〈面白い〉研究とは何かを楽しみながら模索を続けている姿が浮かび上がってくる。今号も「きわ」の環(わ)を広げていくきっかけになれば幸いである。